天使のほっぺが如く

新しい製品をつくる、という仕事に対して、モデルチェンジという仕事もあります。

車なんかだとモデルチェンジの際に大胆なデザイン変更が行われたりすることもありますが、一般的にはその製品の基本コンセプトを踏襲しつつもデザインを少し変化させたりするんじゃないかと思います。

今回は実際に私がモデルチェンジを担当した製品をご紹介します。

前回書いた、リラクゼーションフォーム枕『エンジェルフロート』という製品です。

「天使のほっぺの、やさしいタッチ」
がキャッチコピーの、うっとりとするくらいのやわらかい枕です。
低反発とは全然違う、もちもちとふんわりの中間といった感じの新しい触感。
そしてただやわらかいのではなく、「しなやかに沈み、やわらかく支える」非常に寝心地が良い枕なのです。

西川産業（東京西川）の売れ筋の製品なのですが、発売から４〜５年が経過し、素材や構造のアップグレードが行われることになりました。
売れ行きが落ちてきたのでモデルチェンジ、ということではなく、素材や仕様のアップグレードでのリニューアルです。
特に中身の素材が中国製から日本製のものに！、という素晴らしいアップグレードです。
（ものづくりの海外移転・国内の空洞化には大反対です）

さて、リニューアルに際してデザインをどうするか。
ユーザーに受け入れられている製品なので下手にデザインを弄らない方が良いだろう、と思いました。
２種類の生地の縫合のラインもうまくいっているし、ニュートラルなクリーム色も変えにくいものがあります。

ワインやウイスキーの世界に「エンジェルズ・シェア（Angel's share）」という言葉があります。
日本語では「天使の分け前」と訳されていますが、熟成期間中に蒸発して目減りしてしまった分なんかを「きっと天使が飲んじゃったんだね」と微笑ましく表現した言葉です。
ある時ふとこの言葉が頭に浮かび、シャンパーニュみたいな色（いわゆるシャンパンゴールド）にしたいな、と方針が決まりました。

肌にあたる上面の生地（シルク混ニット）はそのままにして、サイドから裏面にかけてを光沢のある生地にして、少しくすませてベージュっぽくすることにしました。
そうすればやさしいゴールドっぽいニュアンスになるだろう、と。
あくまで上品なゴールドになるように注意して、生地を染めてもらう色を決めました。

そうしてこのように微妙に変化した新『エンジェルフロート』が出来上がりました。

あとはパッケージやタグなどにもゴールドを取り入れて作ってもらい、リニューアル完了。
この新『エンジェルフロート』は昨年後半から発売されています。

私自身もモデルチェンジ前から数年間『エンジェルフロート』を使っているのですが、大変気に入っています。
ハッキリ言って「もうこれ以外の枕では寝たくありません」、というレベル。
特にヨーロッパのホテルの四角い羽毛枕とか勘弁して欲しいですね。あれはクッションとしては良いのですが…。
我が家も昔テンピュールを揃えたクチですが、今は全員『エンジェルフロート』に乗り換えました。

インフォームドコンセントのために短所っぽいことも書いておきます。
『エンジェルフロート』に使われている素材は通気性や放熱性に優れていますが、やはり夏場は起きた時に首の後ろがそれなりに暑くなりました（まだ新モデルが誕生してから夏が来ていないので、モデルチェンジ前のものの使用感です）。
そば殻とか石の枕なんかの方がその点では良いのではないかと思います。
ですが、この寝心地はちょっと手放せないので私は構わず一年中使っています。
寝ている間にも身体は発熱しますから、接触面が暑くなるのは当たり前といえば当たり前ですし。

また、モデルチェンジ後はより一層やわらかくなったので、頭を乗せたときにより一層沈むようになりました（ある程度のところでとまりますが）。
前のモデルからご使用の方は、買い替えの際には一つ高めのものにした方が良いかもしれません。
私も前のモデルでは「ふつう」の高さのものを使っていましたが、新モデルでは「高め」が合うようになりました。
ですから男性はほとんどの方が「高め」が合うと思います。
女性もおそらく「ふつう」の高さが多くの方に合うと思いますが、実体験に基づかないのでちょっと自信がありません…。
枕の高さは肉付きなどの「体型」だけでなく、頭の形などの「体格」に左右されますので、実際に店頭でフィッティングするのが一番です。

東急ハンズや百貨店の寝具売り場で大抵取り扱われていると思いますので、是非一度このもちもちでやわらかな感触を体験してみて下さい。